弊社社長 冨田昇太郎が、トランプ政権のアルミ関税に対して、ブログを書きましたので、転載します。ご覧いただけますと幸いです。
アメリカ商務省による通商拡大法232条に基づくアルミ輸入に対する10%関税は、安全保障面からの観点ではなく、中間選挙を控えたトランプ大統領が支持基盤となっている米国製造業からの集票を目的とした措置と考えられる。
現在米国がアルミを輸入している国は、
1.カナダ
2.ロシア
3.UAE
4.中国
5.バーレーン
となっており、この5か国で77%を占めている。実際のところ、日本は現在10位にも入っていないのが現状である。
米国から見た場合、アルミの輸入には、
1) アルミ原材料(アルミ地金など)
2) アルミ製品 (アルミ圧延材、鋳造鍛造材)
があり、“米国へのアルミの輸入量”について考える際は、これらを分けて考える必要がある。
現在のトランプ政権が保護しようとしているのは、アルミ地金を製錬する工程すなわち上記の1)と思われる。なぜなら、1993年まで全米で23か所の製錬工場があったが、2018年現在では5か所にまで大幅に減少しており、米国がアルミ原材料を大きく輸入に依存しているからである。この点をトランプ政権は安全保障上の問題と指摘している。
一方、ほとんど知られていないが、現在日本から米国への新地金(製錬)の輸出はほとんど存在しないといっても過言ではない。なぜならば、日本でのアルミ精錬(電気分解によりアルミナからアルミを製造する工程)は2014年に日本軽金属の蒲原製造所での製造終了を最後に消滅しているからである。
すなわち、日本はアルミ地金を100%輸入に依存しているのが現状であり、開発輸入(大手アルミメーカーや商社が海外の大手アルミプロデューサーに資本を入れ自社の権益に基づいた安価なメタルを輸入すること)、また長期契約などを通じて安定的に各国の製錬プロデューサーより地金を調達している。
すなわち、今回の米国のアルミに対する関税により日本のアルミ地金が大幅に輸出を減少させることはそもそもありえないし、またそれに伴う損失も極めて限られたものになると予想される。
アルミ製品は形材や板材を中心に米国に一部輸出されてはいるものの現在は、日本国内の大手圧延メーカー各社(UACJ、日本軽金属、神戸製鋼など)の稼働率が極めて高く、国内の納期を守るのにも四苦八苦している状況から考えても、海外に輸出をまわすだけの余裕が限られており、これも大きな影響を受けることは考えにくい。
一方で、米国はアルミ輸入品に関税を10%課すことで、米国内の様々な産業に悪影響が 及ぶ危険性を持っていることを指摘したい。
例えば、アルミの最大のユーザーでもある、ビール・飲料メーカーの製造コストは年間$250Million(250億円相当以上)上昇すると予測され、これにより消費者は物価上昇に悩み、また該当する工場で働く人々の人員カットも検討せざるを得ないとビール飲料大手Miller Coors社の幹部はコメントしている。
また、昨今ではカリフォルニア州をはじめ各州で排ガス規制を強化していることから、車体を軽量化するために鉄に代わりアルミの採用を急激に増やしているのが自動車やトラック業界であり、これらにも影響が及ぶことは必須で、米国製の車は今後コストが高くなり結果、国際競争力がなくなることも考えられる。
航空機業界も米国では最もアルミを使用する業界であるが、ボーイングをはじめとする商業用航空機にも米国以外のアルミ原材料並びに製品を使用させないとすれば、報復措置としてユーザーである各国のエアラインや政府が米国製の航空機の不買に走る可能性も指摘されており、その結果米国の航空機産業にも悪い影響が出てしまうことが懸念される。
米国内のアルミ精錬(アルミ地金)の稼働率は低迷しているが、地金を加工し、製品にするための各工場の稼働率は(自動車軽量化のためのアルミ採用増トレンドにより)かなり高いと噂されている。そのため仮に輸入関税を10%かけた場合、米国内の拡大するアルミ需要に国内製品だけでは(納期など)間に合わない事態も予測され、米国にとっては今回の措置はもろ刃の剣となることを自戒する必要がある。